糖尿病内分泌科の特色

糖尿病と関連疾患

ようやく増加に歯止めがかかってきたものの、近年、糖尿病の患者数は増加の一途をたどってきており、最近の厚生労働省の統計によると、本邦で「糖尿病が強く疑われる人」は約1,000万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」は約1,000万人と、2,000万人もの方が糖尿病もしくはその「予備軍」であるとされています。また、糖尿病は「ケトアシドーシス」などの急性期・緊急の合併症を引き起こすだけではなく、神経障害、網膜症、腎症や心筋梗塞や脳梗塞、さらには足壊疽などの慢性合併症ももたらす疾患であり、長期にわたる注意深いケアが必要です。

幸い、近年、糖尿病の治療は進歩し、様々な新薬が臨床の場に登場しています。当科ではこれらの薬を、個々の患者さんの体の状態に合わせて使い分けて治療を進めています。糖尿病の状態によっては、一時的にでもインスリン治療が必要となるかもしれません。当科では外来でのインスリン導入も積極的に進めており、糖尿病看護認定看護師、特定看護師、糖尿病療養指導士による丁寧な指導によって患者さんのストレスを最小限にすることに心がけています。また、糖尿病診療においては全身の合併症の検索と治療が必要になります。当科では眼科、皮膚科、腎臓内科、循環器内科などの各科と連携を取りながら、全身疾患としての糖尿病の治療を進めています。また、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった血糖降下作用以外の利点を多く持つ薬も患者さんの状態に合わせて使用します。

当科では最新の持続血糖モニターシステム (isCGM、リアルタイムCGM) の使用やインスリンポンプ(CSII) も診療に取り入れています。CGMによって従来の自己血糖測定 (SMBG) ではわからなかった血糖の変動も容易に捉えることができ、より良い血糖コントロールにつなげることができます。当科では産科とも連携を取り、妊婦さんの糖尿病のコントロールにも力を入れています。特に厳格な血糖コントロールを必要とする妊婦さんなどでは、インスリンの頻回注射法によっても血糖管理が困難となる場合がありますが、その場合にはCSIIを使用し、最善の治療を行います。

さらに、当科では、糖尿病診療を専門としている渋谷区医師会のクリニックとも関連を深め、病診連携を進めています。集中した血糖コントロールや教育入院、さらには急性期の治療が必要な場合は当センターで診療させていただき、通常はお近くのかかりつけのクリニックで診ていただくシステムです。

糖尿病教育入院

当院の教育入院では、「糖尿病を知ること」「これまでの生活を振り返ること」をテーマとし、3~4人の少人数グループでプログラムを進めていきます。医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、歯科衛生士、公認心理士、臨床検査技師など、多職種の専門スタッフが関わり、それぞれの立場から患者さんをしっかりとサポートいたします。

「自分のからだをもっとよく知る」「前向きに生活を見直す」
——そんな第一歩を、ぜひ私たちと一緒に踏み出してみませんか。

(2023/11-2024/12の教育入院患者さんの平均HbA1cは入院前7.4%でしたが入院2ヶ月後6.6%まで改善を認めております。)

糖尿病教育入院6日間コース(スケジュールは変更になる可能性があります)
曜日 スケジュール
入院/オリエンテーション(看護師)/検査・血糖測定の手技説明(臨床検査技師)
集団栄養相談(管理栄養士)/糖尿病・合併症のお話(医師)/低血糖・シックデイのお話(看護師)/薬のお話(薬剤師)
皮膚科受診(必要な方のみ)/個人栄養相談(管理栄養士)/口腔内のお話(歯科衛生士)/災害時のお話(看護師)
足のお話(看護師)/運動のお話(健康運動療法士)
個別面談(看護師)/糖尿病との付き合い方について(公認心理師)/修了式
退院
  • 毎食前・眠前の血糖測定(火・金:毎食前・毎食後の血糖測定)

このプログラムに参加された患者さんは、紹介元の診療所に戻られる方も多いですが、当センターの糖尿病内分泌科で受診継続される方は必要時、糖尿病看護認定看護師、特定看護師、糖尿病療養指導士の資格をもつ看護師が「看護専門外来」で退院後のフォローアップもしています。

糖尿病ケアチーム

糖尿病治療には、患者さんやご家族を含めた「チーム医療」が欠かせません。
当センターには、医師をはじめ、糖尿病看護認定看護師・特定看護師、療養指導士の資格を持つ看護師・薬剤師・管理栄養士・臨床検査技師・理学療法士・臨床心理士・医事職員で構成された総勢31人の「糖尿病ケアチーム」があり、外来・入院の両面で安心して療養できるよう支援しています。また「糖尿病教室」や「患者会活動」を通じて、正しい知識や技術、仲間とのつながりを育む場を提供しています。

・生活相談外来
定期受診と同時に、糖尿病療養指導士の資格を持つ看護師による相談外来を受けることができます。インスリンの注射製剤や最新デバイスの使い方から、日常生活の不安まで幅広くサポートします。
また、火曜・木曜の生活相談外来では、フットチェックや爪切り等のフットケアも実施しています。

・糖尿病教室
糖尿病ケアチームでは「糖尿病教室」を開催しています。
例年6月からスタートし、初めての方も参加しやすい内容です。基礎知識から合併症予防、最新の食事・運動・薬物療法まで、毎回テーマを変えて年7-8回(第4木曜午後)開催しています。
糖尿病と上手に付き合う第一歩として、ぜひご参加ください。

・患者会(宮代会)活動
糖尿病と前向きに向き合う仲間とともに、学び・交流できる場として、年1回の総会と勉強会、歩こう会、食事演習会などを開催しています。これまでには「タニタ食堂ツアー」「目黒天空公園へのウォーキング」「ちらし寿司で学ぶ食事療法」など、楽しみながら学べる企画を多数行ってきました。
当センター以外に通院されている方の参加も可能です。ご興味のある方は、お気軽にご相談ください。

患者会(宮代会)活動

初代「宮代会」はリーダー層の高齢化に伴い、一度解散いたしましたが、患者さんからの要望もあり、医療者主体で再スタートしました。もちろん、医療者も患者会の会員です。現在、年に1回の総会と年に数回の勉強会、歩こう会、食事演習会などを行っています。これまでには、NTT関東病院内にある「タニタ食堂ツアー」や「楽しくためになる運動療法」「目黒天空公園へ歩こう会」「自分の食事カロリーに合わせた『ちらし寿司』の残し方(食事演習)」を行ない、患者さんやご家族に(医療者も)充実した日を過ごしていただいた実績もあります。当センター以外の糖尿病内分泌科に通院されている方も患者会への参加は可能です。ご興味のある方はぜひご相談ください。

最新のデバイス

・インスリンポンプ(CSII)
当院では、リモコン操作が可能なチューブレスのパッチ型インスリンポンプ「メディセーフウィズ」(テルモ株式会社)・「ミニメド」(日本メドトロニック株式会社)を採用しています。導入施設はまだ限られますが、使いやすさから高い満足度を得ています。

・持続血糖測定器(CGM)
 フリースタイルリブレ2(isCGM/アボットジャパン合同会社)とデクスコムG7(rtCGM/デクスコムジャパン合同会社)の2機種を採用しています。自己血糖測定では見えにくかった24時間の血糖プロファイルをリアルタイムで把握でき、より質の高い血糖管理が可能です。

内分泌疾患の診療

内分泌疾患は発見が非常に難しく、診断・治療も専門的な知識と経験を要する分野です。当科では、豊富な臨床経験をもとに、丁寧かつ的確な診療を行っています。
甲状腺疾患では、橋本病は女性の20〜40人に1人、バセドウ病は100人に1人程度の頻度でみられ、特に妊娠・授乳期の女性では産科・婦人科と連携した慎重な対応が必要です。当科では他科と緊密に連携し、母児の健康を支えています。
副甲状腺疾患も比較的よくみられる疾患であり、他の疾患との鑑別を慎重に行ったうえで、必要に応じて耳鼻咽喉科と連携し治療を進めています。
近年注目されている原発性アルドステロン症を含む副腎疾患にも積極的に取り組んでおり、内分泌負荷試験や副腎静脈サンプリングを用いて診断を行い、手術が必要な場合は泌尿器科と連携して治療を行っています。その他、クッシング症候群、褐色細胞腫、副腎不全など、さまざまな副腎疾患にも対応しています。
下垂体疾患においては、入院を中心に画像検査や負荷試験を通じて診断を進めています。近年増加している免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害にも対応しています。

教育体制(後期研修医/シニアレジデント)について

――患者さんとともに疾患に向き合う力が、ここで育つ。
 当センターは、日本内科学会・日本糖尿病学会・日本内分泌学会の認定教育施設として、内科専門医、糖尿病専門医、内分泌専門医を目指すシニアレジデントを受け入れています。
内科全体の幅広い視点を学びながら、糖尿病・内分泌というサブスペシャリティに深く関わることができる、学びと実践が両立した研修環境です。
糖尿病診療では、1型・2型はもちろん、肝疾患・膵疾患に伴う糖尿病や妊娠糖尿病、さらには急性期や周術期・周産期の血糖管理など、多様で実践的な症例に日常的に向き合います。
複雑な背景を持つ患者さんに寄り添い、他科と連携して治療を進めていく中で、単なる「知識」ではない「臨床力」が自然と身についていきます。
また、CGMやインスリンポンプといった最新のデバイスも積極的に取り入れており、患者さんの「日常の血糖プロファイル」をデータから読み解き、リアルな課題に向き合う力が磨かれます。ここには、テクノロジーと臨床がつながる最前線があります。
内分泌領域では、外来での橋本病・バセドウ病などの診療に加え、病棟では視床下部・下垂体・副腎といった専門性の高い疾患を経験できます。診断に至るプロセスの奥深さと、診療に携わるやりがいを実感できるはずです。
さらに、カンファレンスや抄読会、学会発表や臨床研究にも積極的に取り組んでおり、月1回開催される「糖尿病教育入院カンファレンス」では、多職種チームの一員として患者さんに寄り添う姿勢と専門医の役割を実地で学ぶことができます。

 「診る力」「聴く力」「支える力」―― 本当に必要な力を、現場で、仲間とともに育てていきたい方のご応募をお待ちしています。

扱う疾患

2型糖尿病

2型糖尿病は、主に生活習慣や体質によりインスリンの働きが低下もしくは分泌が不足することで血糖値が高くなる病気です。初期は自覚症状が少なく、気づかないまま進行することもありますが、食事や運動、薬物療法を組み合わせた継続的な治療で、合併症を予防しながら健康を保つことができます。近年は薬物療法の選択肢も広がっており、患者さん一人ひとりに合った治療法を一緒に考えていきます。

1型糖尿病

1型糖尿病は、主に自己免疫反応によってインスリンを分泌する力が低下・消失することで発症し、インスリン治療が欠かせない病気です。当科では、栄養指導によるカーボカウントの習得に加え、CGMやインスリンポンプなどの最新機器も活用し、日常生活を安心して送れるようサポートしています。

妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠

妊娠糖尿病は妊娠中に初めて見つかる血糖値の異常で、糖尿病合併妊娠は妊娠前から糖尿病と診断されている状態です。いずれも母体と赤ちゃんの健康のため、厳密な血糖管理が必要です。 当院では産科と連携し、食事・運動療法や必要に応じたインスリン治療を行います。血糖測定や注射が負担になる場合には、CGMやインスリンポンプなどの最新機器も導入し、母児の安全を第一にサポートしています。

その他の糖尿病

1型・2型糖尿病のほかにも、膵臓や肝臓の病気、内分泌異常、薬剤の影響、遺伝によるものなど、さまざまなタイプの糖尿病があります。病態によって治療法は異なるため、それぞれの状況に応じて適切に対応いたします。

肥満・メタボリックシンドローム

肥満症の治療は、まずは食事・運動療法の継続が基本ですが、それだけでは改善が難しいと感じている方も少なくありません。近年は薬物療法の選択肢も広がっており、当院でも対応可能です。ただし、使用にあたっては国(厚生省)の定める最適使用推進ガイドラインに従う必要があるため、すべての方が対象となるわけではありません。ご希望の方は、まずはご相談ください。

高血圧・脂質異常症・高尿酸血症

高血圧は血圧が慢性的に高い状態で、放置すると脳卒中や心臓病のリスクが高まります。脂質異常症は血液中のコレステロールや中性脂肪が高い状態で、動脈硬化の原因となります。高尿酸血症は尿酸値が高くなった状態で、放置すると痛風や腎障害の原因になります。これらの疾患はまず生活習慣の見直しを行い、必要に応じて薬による治療を行います。

糖尿病合併症

入院を要する急性期合併症(糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群)には迅速に対応し、慢性期の網膜症・腎症・神経障害についても、各専門診療科と連携しながら継続的かつ丁寧な診療を行っています。

低血糖

低血糖は、インスリンや経口血糖降下薬の使用に伴って起こることが多い一方で、特別な治療を行っていない方でも発症する場合があります。明らかな誘因がない低血糖では、膵臓の腫瘍(インスリノーマ)や内分泌異常など、基礎疾患の存在を念頭に置いた精密な評価が必要です。当科では、原因の特定に向けて画像検査や内分泌学的負荷試験などを組み合わせ、慎重かつ丁寧に診断を進めています。治療中の患者さんに対しても、日常生活に支障が出ないよう、適切な薬剤調整や最新機器(CGMなど)の導入を検討しながら、安心して治療を継続できる体制を整えています。

下垂体疾患

先端巨大症、プロラクチノーマ、クッシング病、非機能性下垂体腫瘍、ラトケのう胞、下垂体機能低下症、尿崩症、下垂体炎、下垂体性無月経など、多様な下垂体疾患に対応しています。入院での内分泌学的負荷試験や画像検査を組み合わせ、正確な診断と適切な治療を行っています。

甲状腺疾患

バセドウ病や橋本病をはじめとする甲状腺機能亢進症・低下症、腺腫様甲状腺腫、粘液水腫症、甲状腺腫瘍(良性・悪性)など、幅広い甲状腺疾患に対応しています。特に女性に多い疾患については、妊娠期を含め産科と連携しながら丁寧に診療を行っています。

副甲状腺疾患・骨代謝疾患

原発性・続発性副甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能低下症、偽性副甲状腺機能低下症など、カルシウム代謝異常に関わる副甲状腺疾患に対応しており、必要に応じて耳鼻咽喉科と連携して手術を行います。あわせて、骨粗しょう症や骨軟化症といった骨代謝異常の診療も行っています。

副腎疾患

クッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、アジソン病などの副腎疾患に対して、内分泌学的検査や副腎静脈サンプリングを行い、的確な診断を心がけています。副腎腫瘍(良性・悪性)を含め、手術が必要な場合は泌尿器科と連携して治療を進めています。

当センターにおける副腎腫瘍の内訳

性腺疾患

男性性腺機能低下症、無月経などの精査を行い、妊孕性なども考慮した丁寧な治療を行います。

二次性高血圧

二次性高血圧症は、高血圧の背景に内分泌疾患(原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、クッシング症候群など)や腎疾患、睡眠時無呼吸症候群といった明確な原因が存在する病態です。特に若年発症、高度高血圧、複数薬剤でもコントロールが困難な場合は、精密検査による原因検索が重要です。当科では、ホルモン検査や画像診断、副腎静脈サンプリングなどを用いて的確な診断を行い、必要に応じて専門科と連携した治療につなげています。近隣の医療機関とも連携し、精査や治療が必要と判断された患者さんの紹介にも柔軟に対応しています。早期診断・治療によって心血管リスクの軽減を目指しています。

主な検査

経口ブドウ糖負荷試験

糖尿病の可能性を否定できない場合や将来、糖尿病の発症リスクが高い方には、経口ブドウ糖負荷試験を施行します。75gのブドウ糖を含んだ炭酸飲料を服用し、2時間まで経時的に採血をして血糖の上がり方を見る検査です。正常血糖型、耐糖能異常型、糖尿病型に分け、HbA1cの値や他の機会に測定した時の血糖値の値などを総合して、糖尿病の診断基準に従い糖尿病や「境界型」(糖尿病予備軍)などを診断します。

持続血糖モニターシステム(isCGM、リアルタイムCGM)

腹部の皮下組織に専用のセンサーを装着し、連続的に皮下のグルコース(ブドウ糖)濃度を測定・記録する画期的な装置です。これらの装置では、従来の1日数回程度の自己血糖測定法 (SMBG) では捉えられなかった高血糖や低血糖を推測できます。厳密には血糖値を測定するものではありませんが、この機器で測定した値は、血糖値とよく相関することが確認されています。当科では血糖の不安定な1型や2型糖尿病の患者さん、さらには糖尿病の妊婦さんなどに使用しています。

内分泌学的負荷試験

内分泌疾患を診断するためには投薬をしたり、様々な負荷をかけて血中ホルモンの反応を見ることが必要です。こういった検査のことを内分泌学的負荷試験と呼んでいます。いずれも通常、安全な検査ですが、安定した状況で行うため、当科では主として入院によって施行しています。

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