胃について
胃は入り口から噴門(ふんもん)、胃底部、胃体部、幽門前庭部(ゆうもんぜんていぶ)、幽門(ゆうもん)と呼ばれる部位で構成されています。噴門は食道への食べ物の逆流を防ぎ、幽門は十二指腸への食べ物の通過を調整しています。胃で消化されて食べ物が粥状に柔らかくなると、幽門が開いて少しずつ十二指腸に運ばれていきます。胃から吸収される物質はアルコール・薬くらいであり、栄養吸収は行っていません。
胃がんの症状
早い段階では自覚症状がほとんどなく、進行しても無症状のことがあります。代表的な症状は、みぞおちの痛み、不快感、食欲不振などです。胃がんから出血することで起こる貧血や黒い便が発見のきっかけになることもあります。
胃がんリスクが高い患者さん
胃がんの危険因子には、加齢、塩分のとりすぎ、喫煙などがありますが、それにも増して重要なのはヘリコバクター・ピロリ菌の感染です。ピロリ菌は胃の粘膜に生息している、らせん形をした細菌です。ほとんどは幼児期に感染して長い年月をかけて胃の粘膜に炎症を起こします。胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃炎などの患者さんを対象とした日本の調査では、10年間で胃がんになった人の割合は、ピロリ菌に感染していない人では0%(280人中0人)、ピロリ菌に感染している人では2.9%(1246人中36人)であったと報告されています。日本人のピロリ菌感染者はおよそ3,500万人といわれています。年代によってピロリ菌感染率は異なりますが、平成30年時点で50歳代の日本人のおよそ4割が感染していると報告されています。
予防と検診
胃がんのリスクを下げる予防としては、「塩分を抑えた食生活」および「ピロリ菌の除菌」の二つがあります。塩辛い食品の食べ過ぎは胃がんのリスクを上げます。それにも増して重要なのは、ピロリ菌に感染しているか否かということです。感染しているか調べる方法として、内視鏡検査以外にも血液検査・便検査などがあります。健康診断や人間ドックなどでも検査項目に入っていることが多いので、今まで一度も調べたことがない人はぜひ調べることをお勧めします。
検査と診断
早期発見に有効なのは、胃内視鏡検査および胃X線検査です。当センターだけでなくほとんどの人間ドックで施行されており、企業・地方自治体の検診でも施行されます。胃内視鏡検査の方が高精度ですが、わずかながら偶発症が発生することがあるなど、それぞれにメリット・デメリットがあります。
どちらにしても定期的に検査を受けることが重要です。特にピロリ菌感染経験者は、未経験者に比べて胃がんの発生頻度が高いので、より定期的検査の重要性が増します。
胃がんは内視鏡検査で生検(組織をつまむこと)して病理検査(顕微鏡の検査)に提出して確定診断に至ります。胃がんと診断されたら、治療方針を決めるためにCT検査や拡大内視鏡(より精密な内視鏡)を受けることがあります。
胃がんの治療法
胃がんの治療は、手術・内視鏡的治療・化学療法(抗がん剤)の3つが中心となり、治療法は病期に基づいて決まります。一般に、ステージ1のうちリンパ節転移している可能性がほとんどない場合に内視鏡的治療が選択され、その他のステージ1とステージ2、3は手術が選択されます。ステージ4では化学療法が治療の中心となります。ただ、患者さんの全身状態、胃がんの進行状態を考慮して、別の治療法を選択したり、あるいは2つ以上の治療法を組み合わせたりすることもあります。
①内視鏡的治療
内視鏡診断・技術の進歩に伴い近年上部消化管内視鏡検査で早期に胃がん病変が見つかる機会が増えています。リンパ節転移の可能性がほとんどないと考えられる病変に対しては内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という方法で内視鏡を用いて胃の内側からアプローチすることで局所的に病変を切除し、根治させることが可能です。外科手術と比べて体の負担が少なく(低侵襲)、胃を温存することができ(機能温存可能であり)、治療後のQOLが保たれるという大きなメリットがあり既に広く普及している治療です。例えば併存疾患を有する高齢者に対しても概ね安全に治療することが可能です。
②手術
手術では、がん自体を切除するとともに転移する可能性のあるリンパ節も切除することが重要です。そのため、胃がんの部分だけ切除するという手術は現在ほとんど行われていません。胃がんの部位や深さによって胃の切除範囲、リンパ節の切除範囲が決まってきます。胃がんの術式は胃を全部切除するか(胃全摘術)、一部残すか(幽門側胃切除術、噴門側胃切除術)に分けられます。胃全摘術の場合、食道と小腸をつないで(吻合(ふんごう))食べ物の通り道を確保します。食道とつないでも、小腸が胃のように太くなるということはありません。ただ、胃がない状態に順応してきて、ある程度までは食事をとれるようになります。
腹腔鏡手術が近年増えています。腹腔鏡手術とは、お腹に数か所1cmほどの小さい穴をあけてその穴よりカメラや器具を入れて行う手術のことを指します。患者さんの体の負担が少ないといわれています。胃がんに対する腹腔鏡手術は、現在早期の胃がんに限って行うことが推奨されています。
③化学療法
現在、胃がんでは目的により、様々な薬を単独または組み合わせて使います。細胞障害性抗がん剤、分子標的薬そして免疫チェックポイント阻害薬が挙げられます。
【薬剤】
■1)細胞障害性抗がん剤
細胞が増殖する過程に影響を及ぼしがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。胃がんの治療では、内服薬としてティーエスワン®、カペシタビンやロンサーフ®が注射として5-FU、シスプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、アブラキサン®、イリノテカンが使われます。
■2)分子標的薬
がん細胞の表面にあるたんぱく質やがんの遺伝子をターゲットとして効率よく攻撃する薬です。胃がんでは、HER2と呼ばれるタンパク質ががん細胞の増殖に関わっている場合、HER2タンパク質の働きを抑えるハーセプチン®と細胞障害性抗がん剤を併用して使います。また、がん細胞に栄養を供給している血管を阻害するラムシルマブを使う場合もあります。
■3)免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞によるリンパ球などのブレーキを解除することにより、体内にもともとある免疫細胞の活性化させる薬です。ニボルマブが使われます。
【目的】
■1)進行・再発胃がんに対する薬物療法(目的:命を延ばすこと)
進行または再発し、手術によりがんを取りきることが難しい場合に行われ、目的は延命です。
薬物療法により、がんによる症状を和らげたりすることもあります。患者さんのがんの状況、化学療法に伴う想定される副作用、点滴の必要性、入院の必要性や通院頻度などについて患者さんで話し合って、どのような薬を使うかを決めていきます(シェアード・デシジョン・メイキング(SDM:Shared decision making))。
薬物療法にはいくつかの段階があり、まずは一次化学療法から始め、効果が低下した場合や副作用が強く継続が難しい場合には二次、三次と治療を続けていきます(下図)。
■2)手術後の補助化学療法(目的:治すこと)
たとえ手術でがんを切除できたとしても、目に見えないごく小さなながんが残っていて、再発することがあります。こうした小さながんを根治する目的で行われる化学療法を術後補助化学療法です。胃がんの場合、TS-1のみあるいはほかの殺細胞性抗がん剤とともに使う方法を検討します。
胃がんの治療別実績
手術件数
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2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
2023年 |
2024年
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胃がん |
47 |
27 |
28 |
25 |
34 |
26 |